座談会

「事実婚という選択」座談会 — 届を出す/出さないで、暮らしはどう変わる?

みさき (離婚して2年) とあかり (事実婚を選択) が、婚姻届を出すこと・出さないことのリアルを語り合います。手当や制度への影響も、藤井先生が最後に整理します。

この座談会は、実際にあるお悩みをもとにした架空の対話です。登場するのは、離婚を経験したみさきと、事実婚を選んでいるあかりの2人です。

みさき
今日はよろしくお願いします。実はあかりさんと同じ「ひとり親」のくくりで語られることが多いんですけど、私は離婚していて、あかりさんは違うんですよね。
あかり
そうなんです。うちは婚姻届を出していなくて、いわゆる事実婚というかたちで、パートナーと息子と3人で暮らしています。息子は今、小学5年生です。
みさき
私は2年前に離婚して、娘のひなと2人暮らしです。あかりさんの場合、そもそも婚姻届を出さないっていう選択、最初から決めていたんですか?
あかり
最初からではなかったですね。付き合っている間はふつうに結婚するつもりでいたんですけど、いざ準備を進める段階になって、お互い「別に紙を出さなくてもいいんじゃない」って話になったのがきっかけです。

あかりが事実婚を選んだ理由

みさき
紙を出さなくてもいい、っていうのは具体的にどういう理由からだったんですか。
あかり
一番大きかったのは名字のことです。私は仕事で今の名字を使い続けていて、変えたくなかったんですね。選択的夫婦別姓は、私たちが決めたときはまだ制度として使えなかったので、事実婚なら名字を変えずにいられる、というのが最初の入り口でした。
みさき
なるほど、それはすごく分かります。私も離婚のときに名字を戻すか戻さないかで結構悩んだので。
あかり
あとは、二人とも「夫婦」という形式そのものにこだわりがなかったっていうのもあります。籍を入れる入れないよりも、一緒に暮らして子どもを育てていく実質のほうが大事だよね、という話を何度もしました。
みさき
周りの反応はどうでしたか。うちの実家は離婚のときもいろいろ言われたので、事実婚だとまた別の大変さがあるのかなって。
あかり
親には最初驚かれました。「結婚しないの」って。でも今はもう10年近く一緒にいるので、実家も落ち着いていますね。パートナーの親のほうが最初は心配していたみたいです、うちは女の子の親なのに、って。そのあたりの温度感は、たぶん家庭によってかなり違うと思います。

名字・戸籍・保険…実際どう違うのか

みさき
制度的なところが気になるんですけど、名字とか戸籍とか、実際どう変わってくるんですか。
あかり
私の場合は、事実婚だと戸籍はそれぞれ別のままなんです。だから私は旧姓のまま、パートナーはパートナーの戸籍のまま。子どもは私の戸籍に入っていて、パートナーとは法律上の親子関係がないので、認知届を出してもらっています。
みさき
認知届って、出さないと親子関係にならないってことですか?
あかり
そこは私も最初ちゃんと分かっていなくて、あとから役所で聞いた話なんですけど、事実婚のカップルの場合、認知をしないと父親と子どもに法律上の親子関係が生まれないみたいです。相続とか、扶養控除とか、いろんな場面に関わってくるらしいので、うちは早めに済ませました。このあたりは制度が変わることもあるので、私が窓口で聞いた話として聞いてもらえたらと思います。
みさき
保険とかはどうなんですか。うちは離婚してからひな一人分、自分の会社の保険に入れているんですけど。
あかり
うちのパートナーは会社員なので、社会保険の扶養に入れるかどうかを一度聞いたことがあるんですけど、事実婚でも被扶養者として認められる場合があるって言われました。ただ、確認する書類が法律婚のときより多かった記憶があります。ここは加入している健康保険組合や会社によっても対応が違うみたいなので、うちはこうだった、というだけで、同じになるとは限らないと思います。
みさき
相続とかも違うんですよね、たしか。
あかり
そこは一番はっきり違うところで、事実婚のパートナーには、法律上の相続権がないと聞いています。うちはまだ何も対策していないんですけど、そのうち遺言のことも調べないとね、って二人で話しています。名字を変えなくていい分、こういうところは自分たちで手当てしていかないといけないんだな、というのは正直感じますね。
みさき
私は逆に、離婚したことで戸籍上はひなと私だけの世帯になっているので、認知とか相続みたいな悩みは今のところないんですけど、その分ひな一人分の生活を全部自分で背負っている感じがあります。どっちが楽とかじゃなくて、悩みどころが違うんだなって、話していて思いました。

子どもへの説明、学校での場面

みさき
息子さんには、うちは事実婚なんだよ、みたいな話ってしているんですか。
あかり
小さいころは特に説明していなくて、家族3人で暮らしているという感覚のまま育ってきました。5年生になって、名字がパートナーと私で違うことに気づいたタイミングで、少しずつ話すようにしています。「お父さんと私は結婚の紙は出していないけど、家族としてずっと一緒にいるつもりだよ」みたいな伝え方です。
みさき
学校で名字のことを聞かれたりはしないですか。
あかり
一度、家族構成を書く用紙で聞かれたことがあるみたいで、そのときは「うちはお父さんと名字が違うんだよ」って本人が説明したらしいです。担任の先生には事前に事情を伝えておいたので、大きな問題にはなりませんでした。うちの子の場合はそうだった、というだけで、学校や地域によって対応の丁寧さはいろいろだと思います。
みさき
うちも、ひなに離婚のことをどう伝えるか、すごく悩みました。子どもへの説明って、正解がないから難しいですよね。
あかり
本当にそうですね。うちも「これが正解」というより、聞かれたときにその都度、その子が受け止められる言葉で答える、を繰り返している感じです。

迷っている人へ

みさき
これから結婚とか、事実婚とか、離婚とか、いろんな選択を考えている人に、あかりさんから伝えたいことってありますか。
あかり
どちらが良いとは言えないな、というのが正直なところです。私は名字を変えたくなかったから事実婚を選んだけど、それで戸籍上の手続きが増えたり、相続のことを自分たちで考えないといけなかったりする。逆に法律婚なら、そのあたりは自動的に整うぶん、名字とか戸籍とかで折り合いをつけないといけない場面もありますよね。
みさき
私も、離婚したことに後悔はないですけど、ひとりで抱えるものが増えたのは事実です。どっちの生き方がいいとかじゃなくて、それぞれに向き合わないといけないことがある、という感じですよね。
あかり
うん。あと一つだけ言えるとしたら、制度に関わるところは「たぶんこうだろう」で進めないほうがいいな、とは思います。うちも認知の話とか保険の話とか、知らずに後回しにしていたら困ったかもしれないので。迷っている人には、パートナーとの話し合いと同じくらい、窓口や専門家に確認する時間も取ってほしいなと思います。
みさき
それは私も、ひとり親の手当のことで役所に何度も通ったので、すごく分かります。今日はありがとうございました。
あかり
こちらこそ、ありがとうございました。

藤井先生の制度補足

藤井先生
ここまでのお二人の話に出てきた制度面について、社会保険労務士の立場から補足します。事実婚は、法律上の婚姻届を出していなくても、ひとり親向けの制度では「婚姻している」のと同じように扱われることがあるという点が、まず押さえておきたいポイントです。
藤井先生
児童扶養手当ひとり親家庭等医療費助成制度は、ひとり親家庭の生活を支えるための制度なので、事実婚の状態にあると判断されると、受給資格を失う場合があります。この判定は、同居しているかどうかだけで決まるものではありません。同居していなくても、頻繁な訪問や継続的な生活費の援助があれば、事実婚にあたるとされることがあり、逆に交際しているというだけで直ちに対象外になるわけでもありません。最終的には、生活の実態を市区町村が総合的に確認したうえで判断します。
藤井先生
あかりさんのように、パートナーと家庭を築くこと自体を否定する制度ではありませんが、ひとり親向けの手当を受けている状態で事実婚に近い暮らし方をしている場合は、自己判断で「うちは大丈夫」と決めつけず、必ずお住まいの市区町村の窓口に相談してください。認知や扶養、社会保険の扱いも含めて、事実婚世帯の考え方をあわせて確認しておくと、窓口での話がスムーズになると思います。

※本記事は令和8年7月時点の公表情報をもとに作成しています。事実婚に該当するかどうかの判定や、各制度への影響は、個別の状況や市区町村によって異なります。最新情報は、お住まいの市区町村の担当窓口でご確認ください。

よくある質問

事実婚を選ぶと、児童扶養手当などのひとり親向けの手当は必ずもらえなくなりますか?
必ずもらえなくなるわけではありません。ただし、児童扶養手当やひとり親家庭等医療費助成制度は、事実婚の状態にあると判断されると受給資格を失うことがあります。判定は生活の実態をもとに市区町村が行うため、自己判断せず窓口へ相談することが大切です。
同居していなければ事実婚とはみなされませんか?
同居していないことだけで事実婚に当たらないとは言い切れません。頻繁な訪問や継続的な生活費の援助が続いている場合は、同居していなくても事実婚と判断されることがあります。一方で、交際しているというだけで直ちに事実婚とされるわけでもありません。
事実婚のパートナーとの間の子どもは、自動的に法律上の親子関係になりますか?
自動的にはなりません。事実婚の場合、認知の届け出をしないと父親と子どもの間に法律上の親子関係が生じないとされています。相続や扶養控除などにも関わるため、早めに確認しておくことが望ましいとされています。
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